ちょっぴり薄暗いトニーのおはなし。繋がっているようなそうでないような。


 久しぶりの電話。ジェフの声が耳に満ちる幸せなひとときは、だけど長くは続かない。
「ごめん、そろそろ」
「あ、待って」
 僕は悲しくてつい遮ってしまう。ねえジェフ、好きだよ。もっと声が聞きたいんだ。
「なんだい?」
 至っていつもどおりなジェフの様子に、胸の奥がちくりとした。彼に迷惑をかけたくない僕は笑って言う。
「ううん、なんでもない。気をつけてね」
 本当に伝えたいのは、こんな言葉じゃないのに。

(あいしてる。言えないくらい、愛してる)



 ウィンターズに短い春が訪れた時、僕は種を蒔いた。ジェフの髪と同じ色の花。
 この花が咲くまでに、ジェフが帰ってくるといいな。
 ――それから何ヵ月か経った。ジェフは未だ帰ってこない。
 もしかしたら、この狭い寄宿舎より何倍も大きな世界に心奪われてしまったのかもしれない。僕なんかより素敵な人を見つけてしまったのかもしれない。ジェフはいろんなことに興味を持つから。ジェフは優しくてかっこいいから。
 いつの間にか花は散ってしまった。金色だった花びらはきたなく萎んでいる。ウィンターズにはまた、長い冬が来る。

うつろいでゆく、



 この光景を何度も何度も何度も何度も想像してきたのに、まるで本当のことに思えない。
 僕の大好きな人が、目の前に立っている。
「ただいま、トニー」
「ジェ、フ」
 嬉しくてたまらないのに、笑っておかえりを言いたいのに、熱い涙がどんどん溢れてくる。
「まったく、君は大げさなんだから」
 電話越しじゃないその声が、じんわり染みこんでくる。それと同時にジェフの姿も滲む。
 迷惑だよね、ごめんね。でも僕、今日はうまく笑えないや。

わらって、わらって、泣いて、


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 ジェフトニへのお題:わらって、わらって、泣いて、/(あいしてる。言えないくらい、愛してる)/うつろいでゆく、 http://shindanmaker.com/122300
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